ほかでもない春野寿美礼のファンなので役者ありきの観劇ではありました。
しかし何がここまで夢中にさせるのか、

まずは音楽(音響は最悪でしたが…)。
そして装置、照明の美しさ。
そしてやはり何よりキャストの妙。

初体験(寺脇氏談)トリプル主演ということですが
さらに日本初演ということもあってキャスト、アンサンブルから放たれるエネルギーの強さが
半端ない。
最初は少し凸凹感はありました。
舞台上での華やかさと美しさはあるものの原作とかけ離れた清楚さを前面に出した役作りのマルグリット。
ソプラノ歌唱は記者発表時よりは板についたものの
オペラ畑の万里生くんと対比するとやや聴き劣りしてしまう細い声。
Iamhereでのメゾソプラノ域で本領発揮しているだけに、さらなる精進を期待してしまう。
実際日を追うごとに高音の奏で方、響き方に華やかさが増しているので
梅芸(私は見ないけど…)日生公演が楽しみで仕方ありません。
やはり主役はマルグリットであるから、アルマンに歌唱で劣ってほしくないのが真理です。
(現時点ではやっぱり万里生アルマンの声の華やかさの独り勝ち 
 でも芯をさらってしまうアルマンの芝居が幼すぎて物語として共感しづらい)

初日から変わらず素晴らしかったのが
アルマンの腕の中で死にゆくマルグリットの歌唱。
ここはこの舞台の中で一番の肝であり、一番の完成度でしたが
今もそれは変わらないまま。
穢れても、誤解されても、惨めな姿になってもなお
純粋で清らかな魂が眩い程に輝く…そんな情景を体現する歌声は
舞台を客席を劇場中を柔らかな空気でつつみこみます。
アルマンに抱かれているのに
アルマンを抱きしめているような
そこにいるアネットやルシアンをも包み込むような優しい歌声。

あわててチケットを追加しまくったのも無理もないわけですよ。
私は春野寿美礼のこの歌声が好きだったんですから。

そして、万里生アルマン。
華やかで精悍な歌声が響く響く。
劇場を突き抜けて響きわたる。アルマンの心の震えが客席をも震わせる。
しかし若い、幼い、台詞が棒読み…と、これは初日の感想。(ごめんなさい)
でも若さと若さゆえの勢い、暴走はアルマンという役にはまっていたので
違和感を感じることもなく(むしろ好ましい方向で)暖かく見守りたいキャストでありました。
中日ごろの暴走は目に余るくらいでしたが
(死にゆくマルグリットにほっぺたを痛いくらいにぎゅーぎゅー押しつけて
 自分が悲しいんだーという気持ちをマルグリットに押しつけまくってました…笑)
(昨日も死にゆくマルグリットの頬にキスする勢いで歌い続けてましたが)
(アルマンてばマルグリットのこと大好きすぎるよね!微笑)

暴走キャラはいまだ変わらずですが、マルグリットもちゃんと受け止めてて
微笑ましい限りです。

ただ、そうだな、アルマンというキャラクターは観衆の好き嫌いがはっきりわかれるというか
難しい役どころではあると思います。
オットーやアネット&ルシアンの方が共感を得やすいキャラクターなのは
日本で上演されているのであれば致し方ないことかと。

歴史や時代背景、フランス人の特性を知らないと誰にも共感できずつまらない作品になりかねないですから。
ナチの残虐さよりもフランス人の狡さや残酷さの方が際立ってますし。

2幕の冒頭でマルグリットを詰るアルマンは我儘な子供みたいに映りがちですが
本当は葛藤があるわけです。
レジスタンスの姉、仲間。それを裏切りたいわけではないけれど
結果的に裏切ってしまっている。
音楽の仕事もできない、ただ他の男のものの女が来るのを待つだけ…
(ああ言葉にすると本当に情けない…)
そういう生き方をしてきたわけじゃなくて
音楽でなんとか自分の人生を変えようとしてきたはずなのに。

そして目の前にいるチャイナドールを救い出したいと思っているのに…
(と思いたいがそこらへんは万里生アルマンからは読み取れません…残念ながら)
(娼婦の生活に戻らせるのが嫌だという台詞はあるものの
 自分だけを見てくれないという駄々っ子の我儘に聞こえちゃうんだなぁ…)


これからもっともっと進化してマルグリットを恋慕の感情だけでなく
深い愛情で包み込んで欲しいと思います。
恋する眼差しは完璧だよ、アルマン!!!


13000円という料金を考えれば、最初の頃の出来と最後の出来が違うなんて!
とおっしゃる人もいるでしょう。
でも日々の変化があるからこその生の舞台、舞台が生きているからこその価格だと思うのです。
むしろ毎日同じものを見せるのであれば映画の料金で十分です。


生の舞台は客席の空気によっても変化し深化する。
これが醍醐味だと思っています。


他のキャストについてはまた次回に。