キャスト 
マリーアントワネット 涼風真世
マルグリットアルノー 新妻聖子
アクセルフェルゼン  井上芳雄
アニエスデュシャン 土居裕子
ルイ16世 石川禅
オルレアン候 高嶋政宏
カリオストロ 山口祐一郎
ボーマルシェ 山路和弘

遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」を原作にクンツェ&リーヴァイコンビで作ってもらった東宝ミュージカルです。
ものすごいお金かかってるんだろうなー…力入れてるんだなーっていうキャストでした。

でも一幕の間中ずっとマリーアントワネットのキャスティングに首をかしげてました。カナメさんは確かに歌が上手い。そして声が衰えてないから音楽がとても聴き応えがある…のだけど。うーん。何がまずいんだろう?
芝居?確かにおつむが軽い役に見えるけど、これって演出にも一因あるような。フェルゼンが何故惚れるのかわからない…それくらい???マークが飛び交う不思議な人だった。
さすがに後半は複雑な心中を察したいと思わせる場面がいくつかあったものの。


最終的に、何が一番足りないのか…それはマルグリットの瑞々しいエネルギーを跳ね返す「王妃」としてのオーラ、貫禄だったなーと思った。
2人が一緒にいて、2人(異母姉妹なのよね?)がシンクロする場面があるというのに全くシンクロしてないこと。オーラが違う。
カナメさんは確かにお芝居が上手い人ではないけど、それだけじゃなくて長い間舞台のセンターに立っていないブランクを感じてしまった。新妻さんに負けちゃってる…あのお歳であの美しさと若々しさ、衰えない美声と歌唱力…でも足りない。

ずーっと誰ならいいだろう?って考えてたのですが…歌唱力、美貌、オーラ、王妃としての貫禄………全てを兼ね備えた人材っていないものでした毬谷さんとかどうかしら…ダメ?はい失礼いたしましたー!


感嘆したのはルイ16世の石川さん。
なんと澄んだ美しい歌声。初めて見る方だったのですが、愛嬌のあるお芝居だけでなく歌声の柔らかさと温かさが私の抱くルイ16世のイメージそのもので心打たれました。素晴らしい…。

そしてこの人、土居裕子さん。
音楽座時代の土居さんの大ファンだった私。土居さんの「声」が好きで、音楽座解散公演のマドモアゼルモーツァルトも通いました。最前列のセンターにだって座りました(笑)。
少年のようなあどけなさも感じられる優しく包容力のある歌声は、現在オサさんの声に惹かれるように声フェチの原点でもあります。

土居さんの歌声が聴ける!
そう思って楽しみにしてたところで新妻さんの声を聴いて驚きました。
声が

土居さんの声に聞えたのです。
そして、オルレアン候を睨み付けるまんまるに見開いたその瞳が、「タンビエットの唄」で見た土居さんの眼差しにだぶって見えて…


そこからは新妻さんに釘付け。
まさに新しい星でした。(まさか王様のブランチのレポーターでデビューしてたコだなんて思いもしませんよ)
ギラギラと燃え滾るような魂は、目を刺す程に眩しくて(そして瑞々しかった)。



その新妻マルグリットが土居さんの演じるアニエスに再会する場面…
重なり合う声の温かで懐かしい響き。


自然に涙腺が決壊。柔らかく柔らかく空気を浄化する土居さんの歌声。



あー…この作品が懐かしい。
土居さんの演じるシスターがね、周作の書く小説に出てくるシスターそのもの。
神を信じてるのに、悩む女。

音楽座でも「私が・棄てた・女」を題材にしたミュージカルがあって、その作品に登場するシスターが思い浮かんだ。
「何を問いかけても風の音だけ」「貴方は何も答えてくれない」
私のキリスト教観はだいぶ遠藤周作に染まっているので、時として非情な運命をお与えになる神への信仰がゆるぎそうになるシスターは「らしい」というか「そのもの」なわけで。

クンツェさんが脚本書いても、この空気が残ることが嬉しかった。




でもやっぱり問題は演出…
主要人物以外動かない舞台…後ろにいる民衆はまるで背景のように動かず、オペラで追うにはとても観やすい舞台ではあったけれど奥行きがないから妄想や想像で書き込めない薄さが惜しい。
また、マリーアントワネットの描き方というか見せ方が中途半端で納得がいかない。
マルグリットが比較的感情移入しやすい役に描かれているのならば、マリーはそれと正反対の場所にいてそれでもかつ観客の心を惹きつけるポイントがあるべきじゃなかったのか、と。


楽曲の素晴らしさキャストの素晴らしさとは裏腹に、名作と呼ぶにはまだ少し距離がある作品の仕上がりだったかな。惜しいです。


しかし、再演を重ねていけばさらに良くなっていくという期待の持てる作品であったことも確か。
再演の折には是非また観劇したいものです。