今日のエリック…


いつも懇願するように子供が親に甘えるように、自分を撃つように呼びかける父の名前。
「約束しただろう?………ジェラルド」


今日は、まるで駄々をこねて癇癪を起こす子供のように痛みをぶつけるように
強く強く彼の名を叫ぶ。
「ジェラルド!!!」


致命傷で、もう父に向かって微笑む力もなく、ただやっとの思いで階段の下に倒れこむと
いたいけな少女のようにまだ幼さの残るクリスティーヌがエリックをそっと抱きとめる。


クリステイーヌの腕の中で、
仮面を外そうとする彼女の手を止めようと、ほんの少し身じろぐけれど全く身体が動かない。

「クリスティーヌ……。」
渾身の力を振り絞り、彼女の名を呼ぶ声は優しく、そして哀しい。


遠い遠い過去の愛された記憶、母との思い出は、幼い頃に自分の顔を見た瞬間に夢と化し
クリスティーヌと出会い、再び芽生えた愛の芽はクリスティーヌの愛ゆえの無邪気さに摘み取られたが



もう一度、クリスティーヌはエリックの仮面を外そうとする。
エリックの手は、クリスティーヌの手を求めて彷徨う。


仮面を外し、その醜い額に愛のキスをして、再び仮面をしてあげる。
クリスティーヌは確かにエリックの手を握ろうと、手を伸ばしたのに


エリックの手は、虚しくも床に落ち、そこに永遠の眠りが訪れたことを知らせるのである。


全て遅かった。
もっと早く誤解を解きたかった。
彼は幸せだったのかしら。



微笑みと言う仮面の下に隠した、彼の涙、怯え、不安…全てが愛しい。
「いいのさ」
彼がどんな我儘を言おうとも、全てを包み込むことの出来る人はすぐそこに、ずっと傍にいたのに。